1. IRR・NPVが不動産投資の判断に重要な理由
不動産投資では、表面利回りや実質利回りがよく使われますが、これらの指標だけでは中長期的な収益性を正確に判断できません。なぜなら:
- 時間の経過による資金の価値変化を考慮していない
- 将来の修繕費用や売却時の価値を反映していない
- 税金の影響を適切に評価できない
そこで必要になるのが、IRRとNPVによる分析です。
2. IRR(内部収益率)とは?
2-1. IRRの基本概念
IRR(Internal Rate of Return)は、投資における収益率を年率換算で表した指標です。具体的には:
- 投資の将来キャッシュフローを現在価値に換算したときに、現在の投資額とちょうど等しくなる割引率
- 投資の収益性を年率(%)で表現できる
- 他の投資商品(株式、債券など)との比較が容易
2-2. IRRのメリット
- 時間の経過による資金の価値変化を考慮できる
- 将来の不確実性を数値化できる
- 異なる投資案件の比較が容易
3. NPV(正味現在価値)とは?
3-1. NPVの基本概念
NPV(Net Present Value)は、将来得られる収益を現在の価値に換算し、初期投資額との差額を示す指標です。
- プラスの場合:投資価値あり
- マイナスの場合:投資を再検討
3-2. NPVのメリット
- 投資の絶対的な価値が分かる
- 複数の投資案件の比較が可能
- リスクの定量化が容易
4. 具体例で学ぶ:不動産投資のIRR・NPV計算方法
4-1. 計算に必要な情報
実際の不動産投資を想定した例を見てみましょう。
物件概要:
- 購入価格:5,000万円
- 自己資金:1,500万円
- 借入金:3,500万円(金利2%、35年返済)
- 想定家賃収入:月額30万円
- 経費(管理費等):家賃の20%
- 保有期間:10年
- 売却想定価格:4,000万円
4-2. IRRの計算手順
Step 1: 年間キャッシュフローの計算
各年のキャッシュフローを以下のように算出します:
基本の年間収支:
収入:
家賃収入:360万円(30万円×12ヶ月)
支出:
- ローン返済:約120万円/年(元利均等返済)
- 経費:72万円(360万円×20%)
- 修繕費:10万円(1年目。以降毎年3万円ずつ増加)
1年目の実質キャッシュフロー:
360万円 - 120万円 - 72万円 - 10万円 = 158万円
Step 2: 10年間の詳細なキャッシュフロー予測
初期投資(0年目):-1,500万円(自己資金分)
1年目:+158万円
2年目:+155万円(修繕費増加)
3年目:+152万円
4年目:+149万円
5年目:+146万円
6年目:+143万円
7年目:+140万円
8年目:+137万円
9年目:+134万円
10年目:+4,131万円(通常CF 131万円 + 売却収入 4,000万円)
Step 3: IRR計算結果
上記のキャッシュフローに基づくIRRは、9.32% となります。
これはエクセルのIRR関数で以下のように計算できます:
IRR=({-1500, 158, 155, 152, 149, 146, 143, 140, 137, 134, 4131})
4-3. NPVの計算手順
Step 1: 割引率の設定
- 割引率:4%(リスクフリーレート+リスクプレミアム)
Step 2: 各年のキャッシュフローを現在価値に割引
0年目:-1,500万円
1年目:158万円 ÷ (1 + 0.04)^1 = 151.9万円
2年目:155万円 ÷ (1 + 0.04)^2 = 143.3万円
3年目:152万円 ÷ (1 + 0.04)^3 = 134.9万円
4年目:149万円 ÷ (1 + 0.04)^4 = 127.0万円
5年目:146万円 ÷ (1 + 0.04)^5 = 119.5万円
6年目:143万円 ÷ (1 + 0.04)^6 = 112.4万円
7年目:140万円 ÷ (1 + 0.04)^7 = 105.7万円
8年目:137万円 ÷ (1 + 0.04)^8 = 99.3万円
9年目:134万円 ÷ (1 + 0.04)^9 = 93.3万円
10年目:4,131万円 ÷ (1 + 0.04)^10 = 2,762.7万円
Step 3: NPV計算結果
すべての現在価値の合計:
NPV = -1,500 + 151.9 + 143.3 + 134.9 + 127.0 + 119.5 + 112.4 + 105.7 + 99.3 + 93.3 + 2,762.7
= 2,350万円
この物件投資のNPVは 2,350万円 となります。
エクセルのNPV関数を使用する場合:
NPV=(0.04, {158, 155, 152, 149, 146, 143, 140, 137, 134, 4131}) - 1500
4-4. 計算結果の解釈
IRRについて:
- 算出されたIRR:9.32%
- 一般的な不動産投資の期待収益率(5-8%)を上回っている
- 金融機関の貸出金利(2%)を大きく上回っている
- レバレッジ効果により、自己資金に対する収益率が高くなっている
NPVについて:
- 算出されたNPV:2,350万円
- 大きくプラスの値となっており、投資価値は十分にある
- 初期投資額(1,500万円)を上回る価値創造が期待できる
- 割引率を4%と設定しても十分な余裕がある
5. 実践的な活用方法とチェックポイント
5-1. 現実的な数値設定のポイント
収入面:
- 空室率の考慮(通常5-10%)
- 家賃の段階的な下落(年1-2%)
- 売却時の価格下落
支出面:
- 経年による修繕費の増加
- 固定資産税の変動
- 金利上昇リスク
5-2. 判断基準の目安
IRRの評価基準:
- 8%以上:非常に良い
- 5-8%:良い
- 3-5%:要検討
- 3%未満:再検討が必要
NPVの評価基準:
- 大きくプラス:積極的な投資検討
- わずかにプラス:慎重な検討
- マイナス:原則見送り
5-3. 実践的なチェックポイント
- 感度分析の実施
- 家賃下落のケース
- 金利上昇のケース
- 修繕費増加のケース
- リスク要因の考慮
- 立地による価格変動リスク
- 建物の経年劣化
- 周辺環境の変化
- 税金の影響
- 減価償却費の効果
- 売却時の税金
- 固定資産税の変動
まとめ:IRR・NPVを活用した投資判断のコツ
不動産投資の収益性判断において、IRRとNPVは必須の指標です。ただし、以下の点に注意が必要です:
- 将来予測は保守的に
- 複数のシナリオで計算
- 定期的な見直しと修正
これらの指標を適切に活用することで、より確実な投資判断が可能になります。
よくある質問(FAQ)
Q1: IRRとNPVはどちらを重視すべき?
A1: 両方を見ることが重要です。IRRは収益率、NPVは絶対額を示すため、補完的に活用しましょう。
Q2: 計算は難しいですか?
A2: エクセルの関数を使えば簡単です。重要なのは、入力する数値の設定です。
Q3: 計算頻度はどのくらいが適切?
A3: 購入検討時は必須で、その後も年1回程度の見直しをお勧めします。
この記事は2024年2月時点の情報に基づいています。不動産市況や金利環境は変動する可能性がありますので、実際の投資判断の際は最新の情報をご確認ください。

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